こんにちは。
先の「い草」のかごに続いて、今回も岡山の編組品をお伝えします。
ただいま、岡山県北部の蒜山(ひるぜん)にきています。
標高500~600mほどの高原が広がり、その一帯は大山国立公園にも指定されている西日本有数の避暑地。関東でたとえるなら、清里高原や軽井沢のようなイメージでしょうか。
そして冬は、日本海側の気候と山々に囲まれた地形の影響を受け、豪雪地帯となります。今年の1月に訪問した時は、積雪が70cm以上ありました。
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その豊かできびしい自然を背景に、この場所で600年以上の歴史をもっている伝統工芸品が、「蒜山ガマ細工」です。
近年では、主に手提げかごが製作されていますが、もともとは運搬用の背負いかごである 「ガマこしご」 が山仕事や農作業の必需品でした。
また中空素材であたたかく、防水性も備えたヒメガマは、雪靴や蓑にも用いられ、代々それぞれの家庭でつくられてきたといいます。
手提げが登場したのは比較的近年になってからのことで、ガマ細工の伝統を守る手段として、民藝品としての需要を期待し、つくりはじめたのがきっかけだそうです。
現在、活動をしているのは7名。すべて地元の女性たちです。
そして、材料の採取などの重労働も、すべて自分たちで行っていることを聞き、秋の収穫のお手伝いを約束していたのです。
当日は朝の5時半に集合!
日が昇り始めると、暑さですぐにバテてしまうので、6時から作業をはじめるためです。
日の出の直前、あたりは低く垂れこんだ霧に包まれ、幻想的な風景でした。
大きな牧場やヤマブドウの果樹園を抜け、細い道をさらに進んでいくと、漆の森のそばに、ちいさな湿地帯が現れました。昔は自生するヒメガマもあったそうですがその数はだいぶ減り、今ではいくつかの場所を決めて、計画的に成長させているそうです。
現地に到着すると、すぐに作業を開始!
ヒメガマの背丈は2mを超えるものが多く、ちいさな女性たちがさらに小さく見えます。
しかし、その作業に無駄はなく、とても速いペースで刈り取っていくのでした。
ある程度、刈り取りが進むと、選別の作業に移ります。
汚れや傷がついた外側部分を取り除いていくと、実際に残る部分は全体の1/4ほどでしょうか。
かごづくりに使用できるのは、根より上の白く厚みがある部分だけです。高さを揃えてロープで縛り、使わない上部の葉をカットします。
こうして、刈り取り → 選別 → 束にする 作業を繰り返すわけですが、同じ姿勢の作業は腰や足の負担が大きいので、それを回避する意味もあるのだと思いました。
仕事をする手は休むことがありませんが、常にだれかが話をしていてあまり沈黙する時間はありません。その話題は、ガマの成育のことにはじまり、掛け合い漫才のようツッコミの応酬だったりするのですが、おかげでつらい作業にも関わらず時間があっという間に過ぎていきました。
作業を開始してから、およそ6時間。
今年のヒメガマの成育はまずまずで、三人分の収穫がこの量です。
その後は、それぞれの自宅に運んだあと、水洗いして汚れをとります。
わずか数束を洗っただけでも、すぐに腰が痛くなってきて、一番の重労働でした。
その後は、ひと月以上の時間をかけて水分を抜いていき、再び選別の作業が控えています。実際にかごを編み始めることができるのは、12月を過ぎた積雪の頃になるでしょう。
今回、僕はわずか一日の手伝いでしたが、みなさんは場所を変えながら、数日間にわたって同じ作業を繰り返していきます。
本当にたいへんな作業が続きますが、でも明日も笑いが絶えない一日となるのでしょう。
これまで、各地でいろいろな材料の採取の現場を訪問してきましたが、これほど楽しみながら作業をしている人々をみたことはありません。
「しんどいことこそ、楽しんでやらんと続かんわ!」というおかあさんの一言がとても印象的でした。
蒜山のみなさま、たのしい時間をありがとうございました!
また来年も伺います。
伊藤征一郎