『二風谷の手仕事 展』
つづいては、貝澤美和子さんの手掛ける「サラニプ」についてご説明します。
「サラニプ」とは、オヒョウ(ハルニレの木)の樹皮を割いて糸を取り出し、縄ひものような状態にしてから、独自の織り機のような道具を用いて編んだもの。主に、山や川を移動するときや収穫などに使用されていたもので、ポシェットのような丸みのある形に、肩ひもがついたものが一般的です。
(従来のかたちに近いサラニプ)
今回の企画展では、伝統的なサラニプに加え、今の暮らしにも取り入れやすい新しいかたちのものにも挑戦していただきました。
というのも、サラニプの実用としての需要はいま、ほとんどなくなってしまっていて、材料の入手にはじまる製作の工程にもたいへんな手間と技術を要するため、とても高価になりつつあります。何よりも後継者がいなくなってきていることから、これまでのサラニプの魅力はそのままに、たくさんの方に使っていただけるようなデザインや形を考えてみたいと思ったのです。
店内では、その品々を手に触れて、実際に着用してみていただけますので、いろいろなご意見をいただければと思っております。
(こちらも美和子さんオリジナルのかたちです)
美和子さんは、熊本生まれ、熊本育ち。
武蔵野美術大学(東京)に入学。在学中の北海道旅行で訪れた、二風谷の人々の暮らしと風景が忘れられず再訪し、ご主人となる貝澤耕一さんと出会いました。21歳で結婚後は、育児と農場の仕事を続けながら、アイヌの刺繍や文様の研究も行うなど、工芸品についての造詣が深い方です。
今回の「サラニプ」づくりに関して、いくつか質問させていただきました。
・「サラニプ」をつくりはじめたきっかけは?
「材料のオヒョウ(ハルニレの木)が好きだから。腰痛持ちなので、アットゥシ(オヒョウ樹皮の織物)は続けられないけど、サラニプはできる。」
・いつ、どなたから習ったのですか?
「20年位まえに夫のおばさんに習った。アイヌの編み物に興味があったから。」
・サラニプづくりをはじめて、どんなことがわかりましたか?
「アイヌの先人たちは、衣食住すべてを通して、自然と本当に上手に付き合っていたことを学ぶことができた。」
・サラニプづくりのたいへんな点は?
「オヒョウはとても優れた材料だけど、いい繊維になるように作るのがとても大変です。」
・新たに挑戦したいものはありますか?
「もっといろいろなサラニプを考案したい。まだしばらくは、このマイブームは続きそう!」
・美和子さんにとって、アイヌ伝統の手仕事を学ぶことの意味とは?
「ここにあるものを学ぶのが、一番自然で、やりやすいから」
・今回の展示の中で、一番気に入っているものはどれですか?
「四角のサラニプです。伝統的な丸いサラニプの作り方を四角に応用できたから。たぶんどこにもない、オリジナルのものだと思います。」
美和子さんの感性と技術で仕上げた新しいかたちです。
インタビューでは「ここにあるものを学ぶのが、一番自然!」という言葉がとても印象的でした。
ぜひ店内で、多くの方に手に取っていただければうれしく思います。