カゴアミドリ

               

イギリス 木かごを巡る旅

列車にゆられ、イギリス中部の湖水地方へと足を運んだのは、伝統的なかごのひとつ “スウィル・バスケット” の職人さんに会いに行くためでした。

湖水地方(Lake district)は、氷河期に作られた渓谷に、大小無数の湖が点在する風光明媚な土地です。

ロンドンから北へ450キロ。電車は入り組んだ海岸線に沿って進んでいき、まるで海の上を走っているかのようです。

終点ちかくの小さな駅で降り、ベテラン職人のオーウェン・ジョーンズさんと待ち合わせをしました。長身なオーウェンさんのおだやかな笑顔に迎えられて、工房へと向かいます。

車で20分ほど走った湖のほとりに、古民家をご自身で手入れしたという、かわいらしいお家と工房がたたずんでいました。


 
この地域のくらしに欠かせなかったという “スウィル・バスケット” は、オークとヘーゼルの木材を組み合わせてつくる、とても丈夫な暮らしのかご。
オーウェン・ジョーンズさんは、今日まで制作をつづけている数少ないスウィラー(スウィル職人)のお一人です。
 

 
|スウィル・バスケット|

かつて、家庭の暮らしを支え、農園では収穫用に、港や駅では石炭の積み込みに使われるなど、生活から産業まであらゆる場面で活躍したスウィル。数多くの職人の手で作られ、湖水地方の景観の一部となってきました。

オーウェンさんは、その時代を知る最後の職人さんから、1988年に技を受け継いだそう。

ちなみにスウィル(swill)とは、「たっぷりの水ですすぐ」といった意味だそう。(加えて「お酒をがぶ飲みする」という意味もあるのだとか。)


 
|素材|

かごの本体に使われているのはオークです。湖水地方の自然林に古くから自生してきた広葉樹。堂々とした姿は森の王とも呼ばれ、イギリスを代表する「国の木」でもあります。

ヘーゼルは、固さとしなやかさのバランスが良く、木かご作りに多く使われる素材。どちらも、一度伐採して終わりではなく、伐った後から何度も新しい幹を伸ばし、再び利用することができる恵みの木です。

オーウェンさんは全ての素材を自身で森に入り採取しています。


 
|伝統と向き合いながら|

師匠から習った作り方を変えることなく、そのままの形を受け継ぎ、伝えていくことが自分の役目だ、とオーウェンさんは語ります。

長さを整えたオーク材は、大きな薪窯使って、二度加熱してから取り出します。

窯から取り出すと、材のところどころが灰色~黒に染まっているのですが、この色の変化こそが、他にはみられない特徴の一つ。

オークに含まれるタンニン成分が、鉄の窯と反応することによってうまれる鉄媒染の色合いです。

この材を、まだ熱いうちに薄くはぎ、「削り馬」にまたがって、刃物を使って形と厚みを整えていきます。

縦向きの編み材はスペルク、横向きの材はタウ。さらに細かく一本一本名前がつけられていて、かごのどの部分に使うかによって、それぞれ決まった厚み・長さ・形に仕上げる必要があるのだそう。

その習熟には4,5年はかかるとのこと。確かに納得がいきました。


 
|循環のなかに|

裏手の菜園では、様々な野菜や果物が育てられていて、養蜂用の巣箱の姿も。近隣にはお店もない遠隔の地で、みずからの手を動かすことで、自立した暮らしを楽しんでいる様子が伝わってきます。

日々のパンもご自分で焼いているそう。サワー種をゆっくり発酵させ薪窯で焼いたライ麦パンは体にしみる美味しさでした。さまざまな果実のジャム、ピクルスなど手作りの保存食もたくさん並び、その豊かさに圧倒されてしまいました。
 

一本のオーク材のうち、かご作りに利用できるのはほんの一部分だけです。残りの部分をどう無駄なく使うかにも、心をくだいているとオーウェンさんは話します。

大きな材は、椅子を作ったり、割って門や柵の材料に。樹皮は、革のタンニンなめしの原料となるため、皮革工房に送り出しているそう。夏になれば森の中で炭焼きをし、燃料として使うことで、全ては自然へと戻っていきます。

オーウェンさんの仕事と暮らしをひと言で表現するならば「循環」。その言葉に尽きるのではないかと、帰る道すがら考えていました。


 
 

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