岡山・蒜山のヒメガマ細工(ヤマカゲの採取に行ってきました)

600年以上の歴史があるといわれる、岡山・蒜山の伝統工芸「ガマ細工」。

素材となる「ヒメガマ」の艶やかな色合いは、長い年月を経てもほとんど変わることなく、軽さと耐久性も備えているすばらしい素材です。
近年では、主に手提げかごが製作されていますが、もともとは運搬用の背負いかごである 「ガマこしご」 が山仕事や農作業の必需品でした。また、中空素材であたたかく、防水性も備えたヒメガマは、雪靴や蓑にも用いられ、代々それぞれの家庭でつくられてきたのだといいます。
ヒメガマの採取ができるのは、毎年9月後半から。
高原の湿原の中に自生している、背丈が2メートルほどに成長しているものの中から、厚みが充分あって、色合いのよいものを選んで刈り取ります。

 
もう一つ欠かせない素材は、縄に使用するヤマカゲ(シナノキ)の樹皮です。
横向きに並べたヒメガマを編みつなげるための、ごく細い縄の材料となります。

細縄の準備作業は11月後半あたり。
梅雨の頃から流水に浸けこんでおいたヤマカゲの樹皮を取り出し、内樹皮の繊維を取り出す作業を行うと聞いて、その取材と手伝いを目的に足をはこんできました。


湧水のある貯水池に浸け込まれ、4カ月ぶりに姿を現したヤマカゲ。軽トラックに乗せて、近くの清流で樹皮をはがす作業を行います。

事前に覚悟しておくように言われていたのですが、水から取り出したばかりの樹皮はベテランの皆さん方も「なんちゅうにおいや!」とさけぶほどの匂い。

余分な部分をきれいに洗い落としたころには匂いもおさまり、若い年輪の層をていねいに剥がしていきます。
この日の朝の気温は3℃。手足が痺れるほど冷たいけど、汗をかくくらいの力仕事。すぐに腰が痛くなってしまいます。
ヤマカゲの樹皮を腐らせることによって、靭皮をきれいに剥がすことができます。
山積みだったヤマカゲ樹皮は、これだけの量に。
さらに選別し、一枚一枚を乾燥させ、手で細く裂いて、撚って縄にするという、その後も長い長い作業が続いていきます。


 
「しんどいことこそ、楽しんでやらんと続かんわ!」というおかあさんたちの会話がとても印象的でした。
ガマ細工の名人になるには、素材の採取と加工作業を楽しめるかどうかが、一番たいせつなことなのかもしれません。
      (7年前の同時期の積雪)

岡山県の北部、鳥取との県境に位置する蒜山高原は、西日本有数の豪雪地帯です。
本来なら今時期は数メートルの積雪があり、一面の銀世界が広がっていますが、今年は2月に入ってようやく雪景色になったそう。。。近くのスキー場も今年のオープンは難しくなっているようで、ヒメガマなどの植物の生育に影響がでないか心配しています。

ここ蒜山のガマ細工も、作り手の減少と材料不足が深刻な問題。高原の湿地に自生しているヒメガマの採取量も、10年前の10分の1程度になっており、イノシシやシカによる獣害、気候変動などの生育不良も考えられます。

日本ではほとんどこの地域だけとなってしまった、ヒメガマ細工の伝統。
当店でできることは限られていますが、今後も現地に通いながらその魅力を伝えていきたいと思っています。

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