カゴアミドリ

               

ダーラナの今。 買えなかったダーラヘストと地産地消。

記事と写真:オオロラノート 
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去年から続く新型コロナウィルスの世界的流行により、スウェーデンでもいろいろな分野で影響が出ています。特に観光業への打撃は甚大なものがあると、新聞やテレビなどのメディアでも度々報道されています。

観光が重要な資源であるダーラヘストの郷ヌスネス(Nusnäs)は、コロナの影響を受けてしまっています。直接村を訪れる外国からの観光客が大幅に減少した他、ストックホルムのガムラスタン等などのお土産屋さんからのオーダーも減り、大変な状況になっているようで、ヌスネスを通過する時にはいつも訪れるダーラヘスト工房の勤続数十年のベテラン広報の女性も、退職する予定だとのこと。

ビョルンさんの住む村テルベリの隣のレクサンドには、100年以上続くレクサンド手工芸協会のお店があります。ここは民族衣装のレンタル(冠婚葬祭で民族衣装を身に纏う文化が今の暮らしの中に根付いています)や、手仕事に関するセミナーや講習会など、手仕事を愛するレクサンドっ子や旅行客のミーティングポイントとなっていた場所でしたが、コロナの影響を受けて閉店を余儀なくされていました。

このお店のことを少し説明させて頂くと、スウェーデンは1800年代後半工業化の波が訪れ、それにともなって古き良き暮らしとその手仕事を守ろうという動きがストックホルムで起こります。代表的なのもは民俗学者で文化人でもあったアルトゥール・ハゼリウスがスカンセン野外博物館を、リリィ・ジッケルマンがスウェーデン手工芸協会を立ち上げ、その動きはやがて地方にも広がります。

地方で一番早かったのは、ダーラナ地方のレクサンド。画家のグスタフ・アンカルクローナという人物が、レクサンドの美しい民族衣装を纏った一団との出会い、この地の素晴らしい手仕事を守ろうと1904年にレクサンド手工芸協会を立ち上げます。

そんな100年以上の歴史と伝統のある団体のお店が、コロナで閉店に追い込まれてしまうなんて、、、イベント用にダーラヘストを購入したかったのですが、それも叶わず。久しぶりにお店に立ち寄った際にクローズの張り紙をみつけ、思わず茫然と立ちすくんでしましました。(※入り口ドアの張り紙によると、新しい形で再開出来るように模索中だとのこと)

このようなことは、ダーラナ地方だけではなく、世界中で起きていることかもしれません。アートや音楽だけでなく、手仕事の分野でも文化や伝統、歴史が途絶えてしまうことがあるかもしれない。そしてそれらを取り巻く人々が大変な状況に陥ってしまう。

ただ、コロナが引き起こす甚大な影響の影で、新しい発見や新しい動きがあるのも事実かもしれません。

テルベリの中でも一番の老舗ホテルオーケルブラッド(Åkerblads Hotell Gästgiveri Spa)は、スウェーデン人の旅行客で満室が続いているそうです。ここのレストランは地元でも評判で、季節の素材を生かした美味しいお料理がいただける場所。同じエリアの観光ホテルのレストランからも一目置かれる存在で、レクサンドの友人も特別な日のディナーはここを予約しているとのこと。今回のイベントの準備のための二回のダーラナ滞在でかならず訪れたい場所の一つでしたが、満席で予約が取れませんでした。

仕事柄、スウェーデン国内や他の北欧諸国に滞在時によく読むのが地元の観光誌。Visit Dalarnaが発行する季刊誌は写真も美しく、いつも必ずチェックするメディアのひとつ。ここに掲載されていた旅ブロガーのサンナ・ロセル(Sanna Rosell)さんのインタビュー記事が興味深いものでした。

調査によると、最近はホテルのスイートルームの人気が高まっていて、カップルだけではなく、親しい友人や家族や兄弟などで週末をスイートルームで過ごすのが人気なのだとか。彼女自身もテルベリのスパホテルでの両親との滞在を楽しんだのだそう。

また旅のスタイルも変わってきているそうで、彼女曰く、「より近場への短距離の旅行により、より多くの発見を得ることが出来る。多忙な日常からエスケープするのは、プチ週末旅行でも充分で、例えば ”とある秋の週末旅行”や ”スキー旅行” や ”アドベント(スウェーデンではクリスマス前4週間中にある週末をこのように呼びクリスマスまでの時間を楽しみます)の週末の旅” など日帰り〜週末だけで完結するタイプの旅がトレンドになりつつある」のだそう。

それにより近距離にある観光地の需要が高まっていて、ストックホルムから3-4時間で行けるダーラナ地方はまさにそんな場所のひとつ。彼女もパンデミックの発生により、旅ブロガーとしての発想の転換をせまられました。

「今年ほど(2020年12月の発行の新聞です)スウェーデン国内を見ることが出来た年はない」と彼女はインタビューの中で語っています。

私たちの求めるかけがえのない体験は、実は身近にある。パンデミックは社会の至る所に計り知れない影響を与えていますが、これは世界中で同時に起こっていること。不安や心配のない日常が戻ってくることを信じつつ、良い変化にも目を向けていきたいものですね。

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【オオロラノート】
2007年から北欧スウェーデンはストックホルム在住のフォトグラファー&ライター、メディアコーディネーターの明知直子が運営するインスタグラム。日本とスウェーデンに関わるプロジェクトや日本の雑誌や書籍などの執筆・撮影などに携わる。著書に「北欧スウェーデン 暮らしの中のかわいい民芸/PIE BOOKS」がある。
◎ オオロラノート @aurora.note
◎ 明知直子 @naoko.akechi
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