さて、モーニングでお腹を満たした後は、琵琶湖東岸を目指します。
お隣の滋賀県で行われている「現代の名工 廣島一夫の手仕事」の展示を
見に行くためです。
かご職人の廣島さんは、現在97歳。
宮崎県の日之影町で生まれ、15歳のときに竹細工職人に弟子入りしたといいますから、
実に80年以上を製作活動に携わっている方です。
その籠を、地元の宮崎県以外でみることはなかなか難しいため、この機会に
思い切って足を延ばしてみることにしたのです。
お昼をすぎた頃、近江八幡に到着。
人影もまばらな歴史ある古い街並みを歩いてみると、なんだかとてもなつかしい雰囲気
が漂っていて、タイムスリップしたような感覚になりました。
そうこうするうちに、「ボーダーレス・アートギャラリー NO-MA」に到着。
旧野間邸を改築したという由緒ある建物に、竹細工の展示がとてもマッチしていました。
早速、一階に展示されている、廣島一夫さんの作品を拝見。
この展示では、写真撮影が可能なだけでなく、すべての展示物を実際に手に取ることが
できるのです。
「おりがつくる籠は見るためのものじゃねえとよ。使うためのものじゃ」
というご自身のお言葉通り、主催されている方々が、その籠たちをどのように捉え、
どのように見てほしいのか、その姿勢が伝わってくるような展示でした。
ひとつひとつため息が出そうな、精巧な作りであることはもちろんなのですが、
何よりも魅力的に感じるのは、使う側の道具としての機能と耐久性を第一に考え、
つくられているところ。
無駄なものをすべてそぎ落とした、究極のデザインのようにも映りました。
とくに、「かるい」と呼ばれる背負い籠は、象徴的な道具です。
平面では安定しない逆三角形の形状ですが、実際に背負ってみるととても背中に
フィットしました。また、斜面の多い山岳地域では、籠をおろした時にこの形のほうが
逆に安定するというのです。
長い間、使用を繰りかえすことによって培われてきた、たくさんの経験や知恵が詰まった
道具だと思いました。
方々も多く参加されていたようです。
特に、現地に移住して廣島さんに弟子入りし、お若いながらも職人として活躍
されている小川鉄平さんの話はたいへん興味深かったです。
この日は残念ながら、実演風景を見ることできなかったので、いつか現地に
うかがう機会を作って、話を聞いてみたいと思いました。
そして、何よりもこのイベントで印象的だったのが、主催側のみなさんが一体と
なっているその場の空気感にあったような気がします。
このような会が今後も続いていくことで、つくる側とつかう側が、これまで以上に
有機的につながっていける・・・そんな希望を感じた会でした。
主催された皆さま、すばらしい展示と楽しい時間をありがとうございました。
今後のご活躍を期待しております。
征一郎