イギリスの最南端。海に面したサセックス地方は、同国の中でもっとも森林の多い地域の一つです。
ローマの時代から「製鉄」が盛んなことでも知られてきた地。鉄の産地であることに加え、広大な森の木を木炭として潤沢に使えたことが、その歴史を支えたのだそう。
産業革命以降の乱伐によって、森の面積は極度に減ってしまいましたが、今ではその再生のために、国を挙げての先進的な取り組みが行われています。
そんなサセックスの森と深いかかわりのある、かご職人のドミニク・パレットさんを訪ねてきました。

ドミニクさんは、サセックス地方の木かご「トラッグ」、デボン地方の「樽かご」など、イギリス南部の伝統的なかご作りを受けついでいる、数少ない作り手のお一人です。
農家の古い納屋を改装したという工房は、広々として天窓からの光が明るく、快適に作業ができるよう工夫がこらされていました。


学生時代には森林管理や林業を学び、卒業してから10年ほどは、生垣職人としての経験を積んできたそう。
ちなみにイギリスでいう生垣(hedgerow)は、日本のものとはだいぶイメージが異なります。広大な敷地に植えられる大掛かりなものが多く、畑や牧草地を区切るだけでなく、多様な生物が息づく「線状の森」を形づくる仕事なのだと教えてくれました。
牧草地を区切る生垣 (hedgerow)。イギリスの田園風景に欠かせない要素です。
仕事の合間の楽しみとして始めたのが、かご作りでした。徐々に本格的に取り組むようになり、2002年には独立。林業の仕事と並行しながら、地域の先達たちに教えを請い、制作技術を磨いていきました。
さまざまな技法や素材を学びましたが、一番夢中になったのは割材のかごだったそう。もともと木の扱いには慣れていたし、地域の森に許可を取って入り、みずから材を伐り出すといった作業も、それまでの林業の経験により難なくこなすことができました。
そんなドミニクさんお気に入りの樹種は、イギリスでは南部にしか育たないという「栗」。重厚で耐水性にも優れているため、生垣や柵の材料としても最適で、この地方らしい景観を形作ってきた木です。

栗の無垢材を使用した「柵」が並ぶ景色も、サセックス地方ならでは。
栗のほかにも、ヘーゼルやトネリコ、ヤナギなどさまざまな木が使われます。写真は、萌芽更新により繰り返し伐ることのできるヘーゼルの木。

かごを作るときに大切にしていることは?とお聞きしてみたたところ、「シンメトリー(均衡性)を特に意識しています」と答えてくれました。
全体のバランス・強度・そして形の美しさ。不均一な天然素材にいかに均衡を与えるか。仕上がった後には見えなくなる部分にも、細心の注意や専門の技術が隠れていることが、途中の工程を見ることによって理解できました。



栗やヘーゼル、マツなどの木材は、地元の森に分け入って採取。ヤナギは自らの手で畑で栽培しています。
「ヤナギ畑の成長サイクルは、周囲の森に生きる様々な動植物たちとの調和の上に成り立っています。大切なのは、自分の作るものがこれらの環境と良い形でつながっていることだと思っています」
森の動植物とのより良い関係を目指し、かごを通じて森と関り続けるドミニクさん。訪問を通じて、多くのことを学ばせてもらいました。

<Devon Stave Basket>

デボン地方の樽かご。樽づくりの技法を取り入れた農作業用のかごで、主にジャガイモの収穫に使われたそう。側板にはヤナギ材を使い、一枚一枚幅と角度を絶妙に調整。枠は栗の辺材。銅釘で留めて仕上げます。
<Artichoke Basket>

アーティチョーク収穫用のかご。ヘーゼルの枝を大胆なスケルトンに組み上げ、くぎで仕上げたつくりは、かごと家具の間のよう。
<Watercress Basket>

カンタベリーの街に伝わる、クレソン摘みのかご。ドミニクさんが育てたヤナギを素材としています。






