しばらく前の話となりますが、先日、秋田県・秋田市、太平黒沢の「太平箕(おいだらみ)」の職人、田口召平さんを訪ねました。
イタヤカエデの若木を割いて、フジヅルと組み合わせて編み、枠に根曲竹を使ったこの地域特有の「箕」は、白い木肌がうつくしく、どこか女性的な雰囲気を漂わせています。
日本各地にあるさまざまな素材を使った箕の中でも、もっとも美しい箕の一つなのではないかと思います。
機能の面では、弾力性と丈夫さを兼ね備え、水漏れもしにくいなど素材の特性をうまく活かしたつくりとなっており、当時は「馬が乗っても壊れない」といわれていたそうです。
経年による色の変化に加え、光沢が増していました。
かつてこの太平と周辺の集落では、ほとんどの人が箕づくりに携わっており、村の名前を冠した「太平箕」とよばれて、幅広い地域に出荷されていました。
昭和30〜40年代に、生産数のピークを迎えます。最盛期には、70人以上の職人たちが、年間5〜7万枚もの数を生産。しかし、以降は農業の機械化やプラスチック製品の台頭により、需要が激減してしまいます。
そして現在、専業の職人として活躍しているのは 田口召平さんお一人のみ。昭和12年生まれ、現在80歳の御年です。
田口さんはご自身の箕づくりに加えて、日本各地の箕の産地を訪れそれらの特徴をスケッチに詳細に記録。60枚以上の箕も収集されており、その知識の深さも貴重な財産だと思いました。
刃物の柄やハサミのカバーは、箕の素材の一つでもある桜の樹皮で自作されていました。
とても気さくで、終始おだやかな笑顔で たくさんのお話を聞かせてくれた田口さんですが、後継者がいないことを大変残念に感じておられました。
「本気で習いたい人が現れてくれたら、自分の技と知識を伝えたい」と最後に話してくれた一言が、とても印象に残る訪問となりました。