貝澤太一さんの「木彫り」のこと。

現在開催中の「二風谷の手仕事 展」では、貝澤太一さんによる木彫りの製品も多数ご覧いただけます。

太一さんは、1970年生まれ。大学を卒業後は、アイヌ文化の研究施設に16年間勤務し、特にアイヌの人々の植物利用についての専門的な知識を学びました。

今回、製作いただいた木彫りの品々も、用途にあわせて多種の木材を使用していて、それぞれの素材違いを見て触れて感じるのはとてもたのしい作業です。


(丸型の「イタ」。材はカツラ。)

道内で最も色濃くアイヌの伝統を受け継いでいるといわれる二風谷の代表的な工芸品である「イタ」(盆)と「アットゥ」(樹皮の反物)が北海道で初めて経済産業省の「伝統工芸品」に指定されたのは2013年のこと。

「二風谷イタ」とは、沙流川の流域に古くから伝わる木製の浅く平たい形状の盆のことで、アイヌ文様(うずまき模様など)やウロコのような彫りが特徴的で、この地域の独自の技法とされています。

実際に現地を訪れてみると、専門の工芸家の方々にもお会いすることができましたが、その伝統を受け継ごうと活動しているのは、一部の職人さんだけではないことを知りました。


(長方形の「イタ」。材はカツラ。)

はじめて、二風谷の貝澤さんご一家を訪問したのは昨年の夏のことでした。代々受け継いできた土地で農業を営みながら、伝統食や工芸、お祭りなど様々なテーマでアイヌの文化を発信している貝澤家のみなさんに、家族で三日間お世話になりました。

「チプサンケ」とよばれる沙流川を舟で下る儀式を体験したり、オヒョウの樹皮をつかった縄づくり体験、アイヌの伝統料理を習ったりとたくさんの文化に触れ、この場所と決して切り離せない人と自然との太いつながりを感じとることができました。

そして、現在残っているさまざまな工芸品も、もともとはそれぞれの家庭で伝承されてきた、この土地を生きて行くためにとても大切な生活の手段であったことに、あらためて気づかされたのでした。


(「ペラ」は織物に欠かせない道具。材はサワシバ。)

「現在の、二風谷の日常の暮らしに残るアイヌ文化を伝えたい!」

その思いから、二風谷の工芸品にも造詣の深い貝澤美和子さん、太一さん親子にご協力をいただき、オヒョウ(ニレの木)の樹皮を編んだ袋状のかご「サラニプ」や、「イタ」を制作をしていただけないか相談に乗っていただいたのが、今回の企画展を開催するきっかけでした。

お二人には、お忙しい毎日のわずかな合間に、たくさんの製品を手掛けていただきましたこと、あらためてお礼申し上げます。

前置きが長くなりましたが、太一さんには「木彫り」に関する質問をしています。二風谷に生きるそれぞれの人の中のアイヌ文化を、感じていただけるのではないかと思います。

・木彫りをはじめたきっかけをおしえてください。
「彫刻を始めたのは、小学校の頃の自由研究からです。でも、彫刻は、小さい時から父がまきストーブの側で、「ゴリ。ゴリ。」って音をさせながら木彫りをしていたのを、自然に聞いていたので、いつの間にか同じことをやるようになったんだと思います。今でも、木に刃物が入る、「ゴリ。ゴリ。」って音を聞くと、なんか嬉しくなります。

僕の彫る彫刻の文様は、基本的には、祖父の祖父にあたる、ウエサナシというエカシ(翁)の彫った彫刻を先生にしています。父もそうでした。

なので、彫刻の文様の意味に関しては、特に意味付けをしないようにしています。それよりも、彫刻と余白のバランスを良く考え、だいたい半半になるように彫ることを意識してます。あとは、必ず、使ってくれる人の安全などを考えながら作ります。

そして、裏に、カタカナの「キ」の鏡文字のようなものが彫られてます。 これは、「イトッパ」と言って、我が家の彫刻に入れる「家紋」のようなもので、男につたわります。」

(100年以上前に作られたという、貝澤家に伝わる「イタ」)

(「キ」の文字は家紋としての意味がある)

・木彫りをはじめて、どんなことがわかりましたか?
「木の目をうまく使うこと、逆らわないことが、何よりも大切だなぁって思います。そして、木の目に逆らわないと、アイヌ文様はシンメトリーと言われているけど、結果的に正確なシンメトリーにならなくても、味わいが出ることがわかりました。」

・やりがいとたいへんさはどんなところですか?
「仕事(農業)と、ものづくりのバランスが難しいです。でも、北海道は冬が農業をできない時期なので、ものつくり、木彫やデザインが、冬期間の職業とできたら嬉しいとは思っています。」

・これから新たに挑戦したいものがあれば教えてください。
「立体彫刻に挑戦したいです。お盆や糸巻きなど、アイヌ文様は平面的に表現されることが多いので、もっと立体的な文様とそれに合わせた動物の姿を彫刻で表現したいと考えています。具体的には、キツツキ、クマゲラやアカゲラを彫刻したいです。」

・太一さんにとって、伝統の手仕事を学ぶということの意義とは?
「当たり前の日常生活の中で、普通に伝えていくことであり、そうすることで、そこに遊び心が生まれて、余裕が生まれて、より味わいのある伝統技術に昇華されるものだと思っています。自慢になりますが、それくらい素晴らしく、奥ゆかしい文化であると思うからです。」

・今回届けていただく作品の中で、一番気に入っているものは?
「ペントレイです。細いキャンパスに、余白とのバランスを考えながら作れたので。」

(ペントレイとしての使用をイメージした「イタ」。材はシナノキを使用)


(「ニマ」は器のこと。材はキハダ。)


(「チシポ」は針入れのこと。イワウツギの木を使用。)

太一さんにはじめてお会いした時、とても印象に残るお話をしてくれました。

その昔、アイヌの人がどこか遠くの土地を訪れるとき、自分の七代前の先祖にまでさかのぼって自己紹介をしたのだそう。人生は自分一人のものではなく、一つ一つの行動が先祖と子孫に対して責任を負うという考え方を持っていれば、人間社会はもちろん、自然環境もより良い方向に向かっていけるはず! というお話でした。

その考えは、現在の太一さんの活動や木彫りの作品にも宿っているように感じます。その品々を、ぜひ実際に手に取ってご覧いただければうれしく思っています。