岡山県の最北部、蒜山につたわる「がま細工」。
こちらは、現地で「こしご」と呼ばれている、昔ながらの背負いかごを
ミニサイズに仕上げた一点です。
鳥取との県境に近く、西日本有数の豪雪地帯でもある蒜山では、
「ヒメガマ」を素材に、さまざまな生活道具が作られてきました。
かつて盛んに作られたのは、雪靴や蓑、笠など雪国の必需品。
この背負いかごも、山や畑での仕事に欠かせない運搬具として
活躍した当時の姿を伝えています。
縦方向に並ぶ、つややかな素材がヒメガマです。
それを横に編みつなげているのは、シナノキ(ヤマカゲ)の繊維を
使った手綯いの小縄。
丈夫な肩ひもは、ヒメガマを帯状に編んだもの。
固く綯った縄で本体に結び付けてあり、長さは自在に
調節することが出来ます。
しっかり丈夫なかごを、この軽さで作れるのはヒメガマだからこそ。
背負った時のフィット感のよさに、かつて生活に不可欠だった
「こしご」の歴史が凝縮しているようです。
今日のような人工素材が生まれる以前、身近な植物をつかって
使いやすい道具を生みだそうとした先人たちの、知恵と工夫が
ぎゅっと詰まった一点です。
<蒜山のがま細工>
その歴史は古く、14世紀の南北朝の時代に、兵糧を運ぶための
背負いかごを作ったのが始まりと伝えられているそうです。
ヒメガマは高原の湿地帯に育つ水生植物。
耐水性にすぐれ、中空構造により保温力も備えているため、
雪靴や蓑、笠など、雪国の暮らしの道具作りに欠かせない素材として
利用されてきました。
もう一つ重要なのが、シナノキの繊維でつくる小縄です。
毎年初夏に伐採したシナノキ(地元の呼び名ではヤマカゲ)の樹皮を、
3~4か月ほど川に浸した後、水洗いして繊維だけを取り出します。
この繊維を細く割き、手のひらで綯ったほそい縄が、かご全体の
出来ばえを左右します。
> ヤマカゲ採取の様子(ブログ)
材料の採取から、素材の下準備、「コモゲタ」や「ツチノコ」など
特有の道具を駆使した編み上げの作業まで、約半年ほどの時間と、
数多くの工程を経て完成するがま細工のかご。
近年、気候の変化などで湿地帯の環境が悪化し、ヒメガマの採取量が
大きく減少しているなか、振興会では栽培の試みにも取り組み
はじめています。
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